約 1,207,250 件
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/244.html
さっきからずっと…。何だろう、この気持ち。 私…、イライラしてるの? -放課後- 「ラブ…。あの子、今日学校でしゃべってた子。 由美ちゃんだっけ?ラブとずいぶん仲いいのね。」 「あぁ、由美?そだよ。私の親友なんだよー!」 「…ふぅん。ラブって、親友がたくさんいるのね。美希といい、ブッキーといい…。 うらやましいわ。」 私らしくない。愛想のない返事。ラブとのおしゃべり、大好きなのに…。 親友になったらもっともっと、おしゃべり出来るの?ずっとそばにいれる? (……私もいつか、ラブの親友になれるかな……) ―――しばし沈黙――― 「…もしかして、せつな。それって、ヤキモチやいてくれてる…とか?」 「?お餅なんて焼いてないわ」 (私は今おしゃべりしてるの!) 「あは、あははは・・・。そ、そーじゃなくて……。 まぁいーや。嬉しいからそういうことにしとこう!うんうん。」 「焼いたお餅がそんなに食べたいの??へんなラブ。」 (こんな時に何言ってるのラブったら!) ラブはせつなの表情が強張ってる事に気付く。 「…あのねぇ。せつなは、親友じゃないでしょ。私の、コイビトなの!」 〝ぎゅっ〟 「きゃっ!……ち、ちょっとラブ?!」 「せつなはー、親友じゃなくて、恋人! いっちばん大切でー、特別でー、ダイスキな人だよ!分かった?」 「…ラブ…」 (あったかい…) 「…やだ、せつな、泣いてるの?……もぉっ、本当に可愛いんだから…」 「な、泣いてなんかないわ!め、目にゴミが入って…」 「はいはい。よしよし。」 「大好きだよ、せつな。ずっと、ずーっと、一緒にいようね」 由美ちゃんごめんね。私のお餅、食べれないみたい。あ、嫉妬ってなぁに?
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/381.html
ランランランラン ラララララ~♪ せつな「・・・」 美希 「~♪ ねえ、唄ったらちゃんと帰してくれるんでしょうね」 せつな「途中で止めない」 美希 「はいはい・・・」 ランランラン ラン ラララララ~♪ 美希 「~♪ ~♪ ・・・おしまい さあ、せつな」 せつな「・・・」 美希 「ちょっと、せつなってば」 せつな「すー」 美希 「・・・ま、子守唄だからね 朝になったら頼むわよ ラブよ、ああラブよ、絶対せつなより早起きしないで、お願いします」 美希 「すぴー」 せつな「(ふふっ)」
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/455.html
【お土産】/恵千果◆EeRc0idolE 祈里 「せっ、せつなちゃん!」 せつな「あら祈里、今帰り?」 祈里 「こっこれ、旅行のお土産なの。巣鴨の」 せつな「え…私に?ありがと、嬉しいわ。開けていい?」 祈里 「もちろん!喜んでくれるって私信じてる!私のと色違いのお揃いなの。 私のは黒でせつなちゃんのはもちろん赤。」 せつな「真っ赤な紐パンティ…」 祈里 「赤い下着を身につけると運気が上昇するんですって!」 せつな心の声『…今夜ラブに見せたら、きっとむしゃぶりつくわね。 朝まで寝かしてもらえないかも… ああっ、想像したら濡れてきちゃうぅ』 祈里心の声『あぁ~これを着けたせつなちゃん、 想像するだけでドンブリ飯3杯はイケる~』 せつな「祈里、ホントありがとう!」 祈里 「こっちこそ喜んでもらえて嬉しい!」
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/510.html
Trick or Treat!/一六◆6/pMjwqUTk 「ねぇ、シフォン。今日のハロウィン・パレードは、シフォンも仮装して参加する?」 美希がリンクルンを片手に、何だか得意げな様子でシフォンに問いかける。ラブの膝の上で、今まさにおやつを食べようとしていたシフォンは、それを聞いて嬉しそうに声を上げた。 「ハーローウィーン!」 ピルンにどこまでその気があったのかはわからないが、今日のおやつはハロウィンにぴったりのパンプキン・パイだ。それをしっかりと両手で抱えて、シフォンはくるりと祈里の方を向くと、キュアキュア……とおしゃべりを始めた。 「キー!」 祈里のリンクルンからキルンが飛び出して、シフォンの頭の上をくるくると回る。 「……そう、わかったわ。あのね、美希ちゃん。シフォンちゃん、クマちゃんの格好の上に、何か可愛いお洋服が着たいんですって」 「ふぅん、なかなか注文がしっかりしてるじゃない。女の子がファッションに敏感なのは、いいことよ。アタシに任せて、シフォン。完璧にコーディネートしてあげる」 祈里の言葉を聞いて、パチリと片目をつぶってみせる美希に、シフォンも嬉しそうに笑った。 今日は十月三十一日。クローバータウン・ストリートでは、恒例のハロウィン・パレードが行われる。四人は学校から直接ラブの部屋に集まって、ここでみんなで着替えをして、パレードに参加する予定なのだ。 「はぁ~。いいなぁ、美希たんは」 シフォンを抱っこしてベッドに腰掛けているラブが、珍しく大きな溜息を付く。隣りに座るせつなは、そんなラブの顔を不思議そうに覗き込んだ。 「ラブ、どうかしたの?」 「いやぁ、大したことじゃないんだけどさ。ブルンはシフォンのおしゃれ担当だけど、シフォンだけじゃなくて、あたしたちを着替えさせることだって出来るじゃない? その気になれば、あたしたちもシフォンと一緒におしゃれを楽しめるんだよね」 「まぁ、そうね」 美希もせつなと同じように、怪訝そうな顔になる。祈里も小首を傾げて、ラブの次の言葉に耳をすませた。 「ブッキーも、キルンがいればシフォンと一緒におしゃべりを楽しめるしさ。アカルンは、みんなで一緒にお出かけできるし……」 そこまで言って、ラブが、あ、と小さく呟いて顔を上げた。その目はさっきまでとは打って変わって、何だかヤケにキラキラしている。 「そっか! あたし、ピルンが出す料理はシフォン専用だから、一緒に楽しむことはできないのかな~って思ってたんだけど……。もしかしたら、試したことがなかっただけで、あたしたちも一緒に食べられるのかな? ピルンの料理で、みんなでピクニックなんかできたりして!」 「え……それはちょっと……」 「シフォンちゃんの、ご飯やおやつで?」 「そんなことしたら、シフォンに怒られないかしら」 戸惑う三人をよそに、ラブは満面の笑みでシフォンに話しかける。 「ね~え、シフォン。そのパンプキン・パイ、あたしも食べてみていいかな。ね? 少~しだけ、味見させて~」 「プリ!?」 驚いたシフォンが、パイを持つ手に力を込めて、嫌々とかぶりを振る。 「ねぇ、一口だけだから~。お願い、シフォン」 「プ~リ~!」 「もう、シフォンのケチ」 「プリーーー!!」 シフォンが口を尖らせて、ラブの膝の上からせつなの膝の上へと瞬間移動した。その途端に、ラブの身体がふわりと宙に浮き上がる。 「わ、わ、わ~、シフォン!」 慌てるラブをちらりと見やって、シフォンが両方の耳を上へと伸ばし、パフンパフンと打ちつける。すると今度はラブのベッドからシーツが外れ、ふわふわと天井近くを漂ったかと思うと、ラブの頭上にバサリと落っこちて来た。 「うわぁ、シフォン、やめて~!」 まるでお化けの仮装でもしているような姿で、空中でジタバタしているラブを、美希と祈里が、心なしか冷やかな目で見つめる。 「まぁ、そりゃあハロウィンの日に、お菓子を貰うどころか取られようとしたら……」 「イタズラするしかないわよねぇ」 ☆ 「うわぁ、何だか去年より、仮装している人が増えたみたいだねっ!」 カボチャの着ぐるみを着て、胴体がコロンと丸くなったラブが、そのまま転がりそうな勢いで通りを駆けていく。 「ちょっと、ラブ~! その格好で転んだら、洒落にならないわよ」 銀色の羽を付けた妖精の姿の美希が、そんなラブを呆れた調子でたしなめる。 黒い三角帽子をかぶって魔女の格好をしたせつなは、腕に抱いたシフォンに向かって、穏やかな声で言った。 「ねぇ、シフォン。ラブはね、ただあなたと同じ物を食べて、一緒に『美味しい』って言いたかっただけなの。あなたのおやつを取ろうとしたんじゃないのよ」 不思議そうに首を傾げるシフォンに、せつなはニッコリと笑いかける。 「だからね。今日、たくさんお菓子を貰ったら、あとでみんなで一緒に、仲良く食べましょ」 「プリプー!」 上機嫌で両手を振るシフォン。隣りから手を伸ばしてその頭をなでながら、お気に入りのコウモリの仮装をした祈里が、のんびりとした調子で言葉を繋ぐ。 「大丈夫よ、せつなちゃん。シフォンちゃんが、ラブちゃんのことを大好きだっていうのは、この格好を見ても、ひと目でわかるわ」 「確かにそうね」 せつなは、仮装したシフォンの姿を――クマの着ぐるみの上に、オレンジ色のカボチャのドレスを着た姿を、改めて見つめる。そして祈里と顔を見合わせて、フフッと楽しそうに笑った。 「おばあちゃん、こんにちは! えへへ。とりっく・おあ・とりーとっ!」 「ラブったら、まだ早いわよ。パレードはこれからなんだから!」 ラブと美希が、駄菓子屋の前で足を止めて、おばあちゃんと話をしている。せつなは、ショウウィンドウのガラスをちらりと覗いて帽子の位置を整えると、祈里と肩を並べて、二人の元へと駆け寄っていった。 ~終~ 複数41は、この直後のお話。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/252.html
「馬鹿っ!もう知らない!」 あたしはそう言って通話を切り、 携帯の電源も切った。 電話の先にいる先輩の後ろから 話しかけている女の子の声を、 あたしは聞き逃さなかった。 先輩の言い訳に加えて、その女の子まで 電話に登場して、ひと騒ぎ。 やっぱり、遠距離だと 心まで離れてしまうのかな。 授業もほとんど耳に入らないまま、 昼休みに学校を抜けた。 公園のベンチで、給食のパンを鳩にあげながら 何を考えるでもなく、惚けていた。 遠くに、下校の声が聞こえる。 授業も終わったようだ。 「ここにいたのね...」 後ろから声が聞こえた。 びっくりして振り返ると、せつなちゃんの姿があった。 「急にいなくなるから、みんな心配してたわ」 せつなちゃんが横に座る。 「...ひとり?」 「ラブはまだ、その辺を探してるわ」 せつなちゃんが、少し あたしの近くに寄る。 「何か...あったの?」 「...」 言い出しにくくて、 気まずい沈黙が流れる。 二学期になって転入してきたせつなちゃんは、 またたく間にクラスの人気者になった。 清楚な雰囲気で可愛いし、頭もすごく良い。 教科書が丸ごと頭に入っているようだ。 おまけに、運動神経の良さはクラスでもピカイチ。 クラスマッチのバレーボール代表に選ばれるなんて、 当たり前に近かった。 男子との練習試合では、男子顔負けの 強烈なスパイクを何度も決めていた。 せつなちゃんが前衛に来たときは、男子は 防戦一方だった。 あたし達女子から見ても、憧れのタイプ。 でも、あまりに万能だから、何だか 遠い人に感じていた。 別の世界の人みたいに。 「...あたし、振られちゃったみたい」 胸が、きゅんと詰まる。 「彼氏が、別の女の人と付き合ってたの」 「そう...」 「あたしが好きだった人が、 あたしを好きじゃなくなってて...」 言葉にすればするほど、悲しくて、 自分が情けなくなる。 「それも知らずに、楽しそうに電話かけて... あたし、何だかバカみたい...」 涙がこぼれてきた。 せつなちゃんに見られたくなくて、 顔を両手で覆った。 頭に、手が回された。 暖かくて、やわらかい感触の中に ゆっくりと引き込まれた。 どうなっているのか、わからなかった。 覆っている手をどける。 せつなちゃんに、頭を抱かれている。 「せつな...ちゃん?」 「泣くのは、恥ずかしいことじゃないわ...」 せつなちゃんの手が、 あたしの頭をそっと撫でる。 遠い存在じゃなくて、 とっても近くにいた。 そして、とっても暖かい。 ぴんと張っていた心の糸が、 ゆっくりと緩む。 しばらく、せつなちゃんの胸に 頭を預けたまま、声を上げずに泣いた。 せつなちゃんは、 ずっと頭を撫で続けてくれている。 どのくらいそうしていただろうか、 ようやく、涙が止まった。 せつなちゃんの、 胸の鼓動が聞こえる。 暖かい感触。 やわらかい感触。 いい匂い。 だんだんと、暖かさが 胸のドキドキに変わる。 あれっ... あたし、失恋したばっかりじゃなかったっけ...? 頭を起こす。 せつなちゃんと目があった。 吸い込まれそうな大きな瞳に、 胸が音を立てて鳴る。 「落ち着いた?」 「うん...でも、どうして...」 「私が、いつもこうしてもらっていたから...」 せつなちゃんの微笑みが、 とってもまぶしく見えた。 胸の鼓動が、さらに速くなる。 せつなちゃんをこうやって抱きしめて くれる人って、どんな人なんだろう。 「あ!いたいた!由美ーっ!」 ひときわ大きな声が響き、 ラブがこっちに走ってきた。 「心配したんだよ!何かあったら相談してよぉ」 あたしの手を取り、顔を近づけてくるラブ。 「ごめんね。ちょっと色々あって... でも、せつなちゃんと話してたらすっきりしちゃった」 「そっかあ、良かったね!あたしも悩んでるとき、 せつなと話すと癒されるんだ」 「ラブも悩むことあるの?」 「えー、何それー」 ふくれっ面のラブを見て、せつなちゃんとあたしは 一緒に笑った。 「由美、気晴らしにドーナツ食べに行こうよ!」 「うん!」 ラブが走り出す。 せつなちゃんの横をすりぬけるラブの手が、 ちょっとだけ、せつなちゃんの手に触れた。 ほんの一瞬だったけど、お互いの 指先が絡んだのを見た。 それは、まるでお互いの想いを 確認し合うかのような、艶めかしい絡み方。 なるほど、ね...。 あたしは何だか、もう一回 失恋したような、妙な気分になった。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/449.html
「明日へと繋ぐ力」/SABI クリスマスイブ、トリニティのリーダーのミユキさんはお仕事ということでダンスレッスンはお休み。 寒いので公園での自主練習もお休みし、わたし達4人はラブちゃんの部屋に集まっていた。 「ブッキー、いつもありがとう」 せつなちゃんがわたしに綺麗にラッピングされた薄いカードみたいなものを渡してくれる。 わたしだけじゃなく、美希ちゃんにも。 「せつなちゃん、ありがとう」 なるべく、破れないように慎重に開いていくと、赤いシンプルなカード。 表には、せつなちゃんの字で、アカルン使用券と書かれている。 「アカルン使用券?」 「ええ、ラブがクリスマスにはお世話になった人にプレゼントするものだって言ってたから」 せつなちゃん、それはお歳暮のことじゃないかしら。 それか大人の人だったら、恋人同士でプレゼントを交換するとかはあるかもしれないけど。 「ラブが以前、お父さんとお母さんに肩たたき100回券を渡したって聞いたし」 それって、勤労感謝の日のこと? それとも、父の日、母の日とか。 もしくは、お誕生日のプレゼント? ひょっとして・・・・ 「せつな、それは父の日とかじゃない」 美希ちゃん、的確なお言葉いつもありがとう。 「みんなにいつもお世話になっているから、感謝のしるし。でも、私はそんなにお金をかけられないから」 「それでこのカードって訳ね」 「せつな、偉いんだよ。カオルちゃんのドーナツくらいしか、お金使わないの」 「カオルちゃんのドーナツは日本一、いえ世界一、もしかしたら全パラレルワールド一かも」 せつなちゃん、カオルちゃんのドーナツは確かに美味しいけど、そこまでは・・・。 ラブちゃんは・・・って、百円玉貯金を見たら、前より減ってる? 「あはははは・・・。最近ちょっと出費がありまして」 せつなちゃんと美希ちゃんは納得したように頷いている。 一体、何のこと? わたしが美希ちゃんの方を見ると、二人には気づかれないようにしてか小声で、 「ラブがせつなにプレゼントしたの」 そうだったんだ。だから最近せつなちゃんが明るくなったの。 「お父さんやお母さんにいつまでも迷惑を掛けられないから、それで貯金してるの。 それで、ブッキーはどこに行きたい?」 え、わたしが最初?うーんそれじゃ。 「サンディエゴ動物園」 「ブッキー、即答!」 「しかも、外国!?」 「じゃあ、早速行きましょう」 「サンディエゴ動物園って、アメリカのカリフォルニア州にあって・・・・」 ってあれ。みんなおーい、わたしの話聞いてる? 「サンディエゴ動物園へ」 4人は赤い光に包まれた。 「ここって本当にサンディエゴ動物園?」 「そのはずだけど」 「なんか人、誰もいなくない?」 「クリスマスシーズンだから休園日ということはないと思う」 動物園というよりは、ちょっとした谷になっていて、草木が生い茂り岩もゴツゴツしていて、とても人が歩けそうな感じじゃない。 左右にある樹木は日本にあるような木でなく、熱帯地方にあるような。まるでジャングルを探検しているみたい。 それに、何かの気配がする? 「なんかちょっとまずくない?」 その気配は少しずつ近づいてきて・・・ そして姿を現した。 白い虎、ホワイトタイガー。 「なあんだ、ホワイトタイガーかあ。だったら、ブッキー・・・」 「しっ、ラブちゃん、静かに」 「船上パーティの時のホワイトタイガーさんは赤ちゃんの時から人間に慣れているの。 でも、このホワイトタイガーさんはどうか分からない。 それに数年前、サンフランシスコ動物園では虎が逃走して死者がでる事件が起きていて・・・」 「ええーー!!うごうご」 わたしからは見えないけど、美希ちゃんとせつなちゃんが必死にラブちゃんの口を押さえているのだろう。 足が竦み、体が震える。 でもわたしがやらなくちゃ、自分を信じて。 お父さんが前に言ってた。動物さん達と理解し合うためには、怖くたって、お互い一歩ずつ近づかなくっちゃいけないんだって。 「キルン」 「キ―」 (ホワイトタイガーさん、わたし達は・・・あなたがたに危害を加えるつもりはありません) (・・・・・・) (迷ってしまってこちらに来たんです。人目のつかない所を教えて下されば、すぐに出て行きますから) (・・・この建物の裏側は人間が少ないようだ) (ありがとう、ホワイトタイガーさん) 「せつなちゃん、アカルンで建物の裏に」 「分かった。アカルン」 赤い光に包まれる直前、わたしはもう一度ホワイトタイガーさんにお礼を言った。 アカルンで瞬間移動したときにみんなと離れてしまったのか、周りには誰もいない。 わたしが辺りを見回していると、体格のいい制服を着た黒人の人が近づいてくる。警備員さんかな? 「May I help you? ――――」 その警備員さんらしき人がわたしに声をかけてくる。 えっと、いくらミッション系の学校に行っているからって、ネイティブの英語は・・・・ わたしがぐずぐずしていると、尚更早口になってまくしたてるように話しかけてくる。 親切で話しかけてるとは思うけど、言葉が通じないって、本当に怖い。 「すみません、その子アタシの連れです」 背後から美希ちゃんの声が聞こえてきた。 美希ちゃん、警備員さんに日本語で言っても通じないんじゃ・・・ でも、警備員さんはにっこり笑って、わたし達から離れていった。 迷子だって思われたのかな? でも、美希ちゃんと同い年なんだけどな。そりゃ、わたしは童顔で、背も美希ちゃんより小さいけど・・・ 「何?ブッキー、顔になんかついてる?」 美希ちゃんの顔を凝視していたみたいで、不思議そうな顔する。 「ううん、なんでもない」 「それより、大変!ラブとせつながどこにもいないのよ。せつなはアカルンがあるからいいけど、リンクルンで連絡とってみる?」 「でも携帯は海外だったら通じないし」 わたし達がそんな会話をしていると、美希ちゃんのリンクルンが鳴りだした。 「ラブからだ・・・。はい・・・・・うん分かった・・・・うん、それじゃ」 「ラブとせつなは一緒なんだけど、別々に行動して後で合流しようって。ブッキーは行きたいとこある?」 「この動物園はパンダとコアラがいて、それに動物と触れ合える場所もあって、でも広いからどれかに絞ったほうがいいかな」 「ブッキーが行きたかったところだから、ブッキーに任せる」 「ありがとう、美希ちゃん」 しばらく歩くと、木枯らしのような音が聞こえてきた。 でも、天気は晴れで風も弱い。日本でいうなら小春日和って感じの陽気。 だけどその音は消えることなく、だんだんはっきりしてきて、ささやきみたいになってきた。 (・・・マ・・マ・・・・・マ・・マ・・) (・・・・ニ・・・・ンゲ・・・ン、・・ニ・・ンゲン・・だ・・・) その声はもっと大きくなって、わたしの脳内に鳴り響く。 (ママー、ママはどこにいるの) (僕達いつまでここにいなくちゃいけないの) (ニンゲンだ、ニンゲンがまたキタ) そんな大声で話されたら、わたしの耳がおかしく・・・・ 「――ブ―――、―――ブ――キ―――、ブッキー、どうかした?」 「なに、美希ちゃん」 「なにじゃなくって、急に立ち止まるから。ブッキー顔色悪いよ、また気分でも悪くなった?」 「ううん、平気」 「こっちのベンチに座ってちょっと休もう」 わたし達の間に沈黙の時が流れる。 いつもの何も話さなくても居心地がいい雰囲気じゃない。話したいことがあるのに、どちらも口にしない重苦しい感じ。 「美希ちゃん、やっぱりわたし獣医さんになりたい、ううん、獣医さんになる」 「・・・・・・」 「わたし、小さい頃お父さんとお母さんに連れられて動物園に行くのが大好きだった。 図鑑やテレビでしか見ることができない動物達をたくさん見ることができて、嬉しくて幸せだった」 「・・・・・・」 「このサンディエゴ動物園は希少動物の保護に熱心な動物園で、世界的にも有名な動物園で・・・。 飼育されているところも、広い場所に動物さんの生まれ故郷の環境に近くなるように作られているの。 だから、この動物園の動物さん達は、みんな幸せだって思ってた。 でも、動物さん達の中には家族と離れ離れになった子や、人間に見られるのが嫌な子達もいる・・・・」 「だから、わたしは人間と動物達の橋渡しをしたい、そうなれたらいいと思う」 美希ちゃんは黙って立ち上がり、わたしに手を差しのべてくれる。 わたしはその手をとって立ち上がり、そしてそのまま手を繋いで、前へと歩き出す。 今日はクリスマスイブ。 わたし達の前方から親子連れがこちらへやってくる。 クリスマスプレゼントなのか大きな袋を持ってはしゃいでいる女の子、それを見て微笑む両親。 わたし達とすれ違うその親子が向かう先からは、動物達の鳴き声が聞こえてくる。 了
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/167.html
「頬を濡らすは君のぬくもり」/SABI 私はラビリンスにいた。 灰色の空、無機質な高層ビル、そして、モノトーンの同じ服装をした人々。 私はそうした人達の群れの中にいた。 誰も他人を見ない。誰かが遅れると、列が乱れてしまうから。 例え、誰かが転んでも、誰も助けない。立ち止れば、列が止まってしまうから。 同じ間隔を保ちつつ、横と同じ歩幅で歩く。みんなと同じように。 だって、そうしなければならない。メビウス様のご指示だから。 だって、そうしなければ、食事の時間に間に合わない。その後の就寝の時間にも影響する。 他の人々と同じように歩く私の目の前に、突然、一条の光が見えた。 細い細い、その光は今にも消えてしまいそうだ。 あの光は私の求めていたものかもしれない。 私が幼い時から追い求め、自分の空虚を埋めるかもしれないもの。 前を歩く人々をかきわけ、列を乱しながら光を追いかけ、必死に走った。 無表情だったラビリンスの人達の顔がどことなく怒りを含んでこちらを見ても、構わずその光を追いかけた。 走って、走って、でも、近づかない。 むしろ、私が走れば走るほど、光は遠ざかっていくように感じる。 体力の限界と思える程走っても、追いつかない。 息を整えるために仕方なく立ち止り、大きく息を吐いていると、 私の目の前で、光は消えた。 自分の乱れた呼吸と鼓動の音だけが聞こえる。 目の前には、キュアピーチ。 ラビリンスの敵、私が倒さなければならない・・・敵。 今度は、森の中に、私はいた。 鬱蒼と樹木が生い茂った、占い館の近くの森。 ・・・やっぱり、せつなだったんだね・・・ 私はせつなじゃない!! お前達プリキュアの敵・・・お前の敵、 我が名はイース。ラビリンス総統メビウス様が下僕。 いや、私はもう、ラビリンスの幹部ではない。 プリキュア討伐の失敗によって、メビウス様に罷免された・・・ 目に止まらぬ速さのパンチや膝蹴りを繰り出すも、キュアピーチに受け止められてしまう。 私の渾身の攻撃も効かない。 疲弊した私は、空中でバランスを失って地面に倒れ込む。 死力を尽くしても、倒せなかった。 そもそも私は、キュアピーチを、ラブを倒そうなどと思っていたのだろうか。 プリキュアを倒したところで、私はラビリンスに戻れる訳でもない。死を免れない。 メビウス様の決定は、絶対だ。 地面に横たわった私の背中を、柔らかい草の絨毯が包み込んでくれる。 無数のシロツメクサの中で、スポットライトが当たったように、その葉だけ浮き上がって見えた。 確か、幸せの素とか言う、四つ葉のクローバーが私の目の前にあった。 ・・・せつなの幸せ、摘み取って・・・・・ 私の幸せ? 私が見つけた幸せ・・・ 私はうまく動かない右手を伸ばし、その葉を摘み取ろうとしたその時、 ・・・・時間です・・・・ どこかで、そう聞こえた気がした。 私の心臓が、一度大きく跳ねて、止まった。 私の意識は闇の中に飲み込まれていく。 もう、目が見えない。何も聞こえない。 やっぱり、私は・・・手に入れることができなかった。 ・・・・せつな・・・・せつな・・・ 私はもう、死んだはず。 なのに何故、ラブの声が聞こえるのだろう。 ・・・・せつな・・・・せつな・・・・ 「せつな!!」 目の前には心配そうなラブがいた。 「あ、せつな、目が覚めた?」 右手でラブの頬に触れる。 良かった。夢じゃない。 ここは、ラビリンスでも、占い館近くの森でもない。桃園家にある私の部屋。 「うなされていたけど、怖い夢でも見た?」 私は大きな息を吐き、涙を流していた。 涙は止めようと思っても、後から後から、出てくる。 でも、苦しい涙や悲しい涙なんかじゃない。嬉しくて、安堵の涙。 壊れたおもちゃのように、首を振り続けながら涙を流す私を、 ラブが伸ばした私の右手を握って、涙を拭ってくれる。 暫くして、涙が止まり、悪夢の名残が私から無くなった頃、 私の頬を挟んでいるラブの左手の甲にそっと、私の掌を置いた。 「どうかした?」 ラブが心配そうに、私の顔を覗き込む。 どんな時であっても、ラブは私を気遣ってくれる。まるで、私が世界で一番大切だというように。 「ラブ・・・」 暗い室内だけど、私の瞳に何かを見たのだろう。 互いを大切に思っていながらも、互いの全てを貪ろうとする眼差し。 ラブの顔が近づいてくるのを感じ、私は目を閉じた。 春の雨のように温かく優しいキスが顔のあちこちに降り注ぐ。 最後に私の唇に落ちてきて、啄むようなキスがだんだんと、嵐のように激しいものになっていく。 私の涙を拭ってくれた右手は頬を離れ、裸の肩へと滑っていく。 ラブの左手は私の手を握ったまま。離れないように、私はラブの指に自分の指を絡ませる。 不思議だ。 かつての私は、他人に触れられることを嫌悪していたのに。 いえ、今だってそう。誰だっていいって訳じゃない。 こうやって、私に触れてもいいのは、ラブだけ。 キスが長く深いものになっていくにつれ、正面に向かい合って、ラブの体を受け止める体勢になる。 体重がかかったことで私の表情が変わったのか、ラブが「重い?」と聞いてきた。 重いかと聞かれたら、確かに重いのだけど、私の体にかかる重みを愛しく思う。 私の体にかかる心地よい重量感、素肌にかかる熱い吐息、口の中に残るラブの味さえ、 そのすべてが、これが夢ではないことの証だから。 ラブの唇が私の顎のカーブから鎖骨の間に滑り落ちて、雪道の轍のように、私の体に見えない痕を残していく。 肩の辺りを彷徨っていたラブの右手は胸へと到り、その頂を親指と人指し指で軽く抓み、優しく擦る。 指と交代して胸の頂を口の中に含まれると、温かく濡れた感触に、思わず吐息が漏れる。 指の愛撫によって、固く敏感になった頂を少し痛いくらいに強く吸われる。 吸われる度、力が吸い取られていくように、私の全身から力が抜けていく。 私の体の上で動くラブの頭を見ると、自分が求められていることを実感し、私の心は満たされる。 それに反して、私の体は不足を訴え、疼いていく。もっともっとと。 私はもう、その疼きが何であるか知っている。 次の愛撫をねだるように、閉じていた腿を少し開くと、 私の無言の求めに応えるように、ラブの手が下の方へと降りてくる。 濡れた道筋を何度も往復していたラブの指が、隠された小さな蕾を見つけ、そっと触れる。 固く閉ざされていた蕾は、指で触れられる毎に、一枚一枚綻んで、次第に花開いていく。 花の中心からは滴り落ちるほど蜜を湛え、強い芳香を放って、訪れる者を誘う。 蜜を吸う蝶の羽根が花びらにかすめたような微かな愛撫ですら、今の私には耐えられないほどの快感をもたらす。 体の底から湧きあがってくる、自分ではどうすること出来ない熱。 その熱が徐々に全身に広がっていって、私はラブの名前を譫言のように何度も呼びながら、高みへと飛翔した。 私がラビリンスにいた頃、一人ぼっちで寂しかった夜に、側にいてくれる人は誰もいなかった。 いくら、寂しくなんかないと自分で否定しようとしても、心の奥底では誰かを追い求めていた。 だけど今、私の隣には、ラブがいる。 ラブが眠った後でも繋がれたままの手を握り返し、横顔に寝息を感じながら、私は眠りに落ちた。 了 ~おまけ~ 「あたし、ばくになりたいな」 「バグになりたいの?」 「バグじゃなくて、獏。伝説上の生き物で夢を食べるって言われているんだ」 「私は、ラブが獏でないほうがいい」 「えー、どうして?」 「獏ってどんな生き物、大きい?小さい?」 「小さい象がずんぐりむっくりしてて・・・」 「・・・それじゃ、どんなのか分からないわよ」 「架空の動物なんだから、どんな形か分かんないよ。どうして、獏じゃ駄目なの?」 「だって、ラブが獏だったら、こうやって、キスしたり、抱き締められたりはできないでしょう」 「せつな・・・」 「ラブ・・・・」
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/738.html
カウンターに二つ並んだスツール。 そこに腰掛けると、ラブの胃袋がキュウ…と情けない音を出す。 ラブはお腹ペコペコな事に今更ながら気が付いた。 「い…いただき、ます。」 「ハイ、どうぞ。」 (あ………) オムレツを一口。口に入れたまま、思わずピタリと止まってしまった。 「どしたの?」 「……おんなじ、味だ。」 家で食べる、お母さんや自分が作るオムレツ。 柔らかさも、塩加減も、バターの香りもまったく同じ。 「ああ……。そりゃあ。」 同じ人に教わったんだし。 サラリと当然の事実を告げる口調で呟き、また涼しい顔で食事を続ける「せつな」。 並んだお揃いの食器。お客様用、ではなく使い慣れた感じの普段の物。 マグカップの色は赤とピンク。他の物にもさり気無く同じ色使いのポイント。 本当にここが近い未来で、隣の彼女がせつなだとしたら。 (これって、そう言うコト……?) ここは少なくとも桃園の家ではない。 ラビリンス、と言う雰囲気でもない。 2DKくらいのこじんまりとしたマンションのような。 周りを見ると、寝室と同じく殺風景なくらい必要最低限の物しか置いてない。 でも、そこには確かに生活の温かさが漂っている。 良く見れば至るところに住人の気配を感じる。 昨日今日暮らし始めた訳ではない、住み慣れた巣。 「ん?ああ、ラブの部屋ならあっちよ?」 キョロキョロと落ち着き無く視線をさ迷わせるラブに、拍子抜けするくらい アッサリとラブが聞きたくて聞けなかった事柄の答えが落っこちてきた。 思わずガクッとなりそうになるのを何とか堪える。 それに、聞きたい事はそのまた一本先であるからして。 でも、まあ。 今朝の彼女の反応から鑑みるに、たぶん、恐らく、きっと、そう言う事なんだろう。 人間、不思議なものでお腹が満足すると自然に胆まで座る。 今の状況は良く分からない。はっきり言ってまったく理解出来ないが、一つ決めた。 今、自分の隣にいる人はせつなだ。と信じる。 だったら、分からない事はせつなに聞けばいい。 これが夢でも現実でも奇跡でも、兎に角せつなを信じない事には 自分にはどうしようもないのだから。 なので、取り敢えずさっきから気になっていた事を聞いてみた。 「あの、ですね…。」 「はい。なあに?」 「何で、そんなに落ち着いてるんですか?」 そうなのだ。それが不思議で仕方がなかった。 自分とせつなは同い年。 なら当然一緒に暮らしているらしい「ラブ」もとっくに大人のはず。 それなのに、当のせつなは慌てた様子を見せたのは寝起きの一瞬だけ? その後の一連の流れは御覧の通り。 せつなは、何か知ってるんだろうか。 この、とても現実では有り得ない、しかし現実としか思えないこの状態を。 「夢でも見てるのかもね。」 「いやいや、それは……」 これまたアッサリと身も蓋も無い事をおっしゃる。 「まあ、これは冗談として…」 「今の状況が冗談だと思うんだけど。」 「確かにね。」 愉しげな様子さえ見せる彼女に、ラブは頬を膨らませる。 これでも真面目に聞いてるんだけど。 「私にも、よく分からないんだけど……」 ちょっと、しばらく聞いてくれるかしら? ニッコリと微笑まれ、ラブの脳はまた崩れかけた。 この笑顔は反則だろう。逆らえる人がいるとは思えない。 「私もね、昔とても不思議な夢を見た事があるの。」 ちょうど、今のあなたくらいの頃に、ね。 「私、その頃ラビリンスにいたの。」 大好きな人と離れてね。一人で暮らしてた。 自分で決めた事だったし、仲間もいたし、特に戻ったばかりの頃は 寝る間も無いくらい忙しくって。 寂しさなんて感じてる暇ないだろうって自分で思ってたのよ。 甘かったわね。私すっかり寂しがり屋になってた。 どんなに忙しくたって、寝る間も無くたって寂しいものは寂しいのよ。 本当に辛くてね、後悔なんてしないって、いずれ帰るんだから それまで精一杯頑張ろうって思ってたんだけど……。 やっぱり一人の部屋に戻ると泣いちゃうの。大好きな人に会いたくて。 「戻ってどれくらい経った時だったかしら。辛いなりに何とかやってた頃よ……」 ある朝、目が覚めるとね。隣に人が寝てたの。 びっくりなんてものじゃなかったわ。 ラビリンスのセキュリティって凄いのよ?元管理国家をナメないでね。 まかり間違っても、住人の許可無しに部屋に、それも寝室に外部から 侵入出来るなんて有り得ないの。 しかも私、かなり…それなりの部屋に住んでたしね。 テレポートでもしない限り不可能なのよ。 「でも、そんな事考える余裕なんてふっ飛んじゃったわ。」 その人の顔みたら、ね。 そっくりだったの。私の大切な人に。 会いたくて会いたくて、仕方なかった人に。 でも、絶対に本人じゃないはずなのよ。 どうしていいか分からなくて固まってたら、その人が目を覚ましてね。 「『おはよう、せつな。今何時?』ですって。」 その人、ラブは…22才だって言ってた。 ラブは最初、驚いてたけどね。しばらく考え込んで……、『コレだったのか!』って。 こっちには何が何だか分からないんだけど。妙に一人で納得してるのよ。 「で、私の言いたい事、分かるかしら?」 分かる。と、言いたい所だが如何せん頭の出来にはこれっぽっちも 自信のないラブだ。感覚的に理解はしたが、説明しろと求められたら 絶対に無理だ。 それよりも。 大好きな人。 大切な人。 会いたくて会いたくて、仕方なかった人。 繰り返されるその言葉に、ラブの心に内側からぽっと灯がともる。 ニヤニヤと赤面しながら困惑した表情をすると言う、 相当器用な顔面の使い方をするラブ。 せつなは気にするでもなくポンポン、とラブの頭を撫でる。 「いいのよ。何となく…で。」 私にだって説明なんか出来ないわ。 「じゃあ、それでその…22才のラブはその後…」 「うん。その日1日いて翌朝目が覚めたらいなくなってた。」 ふにゃり、と力が抜けた。 じゃあ、自分も一晩眠れば元に戻ると言う事だろうか。 「多分、そうなんでしょうねぇ…。」 「そんな、他人事みたいに。」 だってどうしようもないんだし。 と、せつなは遠くを見てわざとらしい溜め息をつく。 確かに、その通りなんだが…。 (ま、ジタバタしたって仕方ないか。) 取り敢えず、これが夢でもなんでもいい。 ただ待つだけしかないと決まれば、後はせめて好奇心を満たさせて貰おう。 未来を覗けるなんて、人並み以上に奇跡を経験したラブにだって プラチナクラスの奇跡に違いない。 「駄目よ。」 ワクワクし出した途端に、せつなのいつもの冷静な声。 「あなたの事は何も教えてはあげられないわよ。」 「どうしてっ?!」 「当たり前でしょ?」 既に情報得すぎてるくらいよ。 あなたの未来は、あなたがこれから作るの。 私が教えたら、それをなぞって生きて行くの? そんなの詰まらないでしょ? 自分で掴み取る。それがあなたの未来なんだから。 「私だって何も聞かなかったわよ。それに……」 一番知りたかった事は、分かっちゃったし。 ああ、そうなんだ。 せつなも、今のあたしと同じ事が気になってたんだ。 ラブの胸がほんのりと温もりで満たされる。 大人になったせつなには、大人のラブが当たり前に隣にいる。 はっきりと、この部屋がそう言ってる。 それでもおずおずと、これだけはやはり聞いておきたいから。 「……ラブと、せつなは一緒に暮らして…る?」 「ええ、そうよ。」 「それで、その…ですね。今の二人の…何と言いますか、……」 大人の女性に直接的な単語を含む質問をするのは、何だか非常に居心地が悪い。 しかしながら気の利いた婉曲な言い回しが出来るほど頭の回転は良くない。 「察して頂けませんか…」と言わんばかりにモゴモゴと歯切れの悪いラブ。 「……あのね…、」 「はい。」 「ベッド、広かったでしょ?」 「ーーー!!」 「つまり、そう言う事。」 ラブが自分の部屋で寝る事なんて、滅多にないわよ。 そっぽを向いて軽く唇を尖らせている。 真っ白だった頬が心無しか、さっきよりも健康的な色に上気している。 ああ、やっぱり大人になってもそう言う事は恥ずかしいんだ。 それに…… (……やっぱり、せつななんだ。) 照れ屋で意地っ張りで。それを隠そうとして全然隠せてない。 きっと今でも大人のラブは恥ずかしがるせつなが見たくて、時々意地悪して。 泣かれたり、叱られたり、拗ねられたり。 そして、必死に謝って許してもらったりしてるんだろう。 以前と変わらない二人のままで。 隣の部屋で一緒に暮らしてた頃と。 ベランダからお互いの部屋へ忍び込み、息を潜めて抱き合っていた頃と。 大人のせつなとの時間はゆったりと過ぎて行った。 狭いけど使い勝手の良いキッチン。並んでお皿を洗った。 色んな話をした。自分達の未来の話がタブーなら会話に詰まるかと思ったが、 案外、話題には困らない物だ。 考えてみれば当たり前かも知れない。相手はせつななんだから。 普通に、せつなに話すように話せばいい。 学校での事。友達の面白い話。両親の様子。いくらでもある。 「ラブ。今、幸せ?」 「うん!毎日、楽しいよ……でも……」 少し、言葉に詰まる。その先は、言わなくても分かるだろうから。 「そうね……、ごめんね。」 今のせつなにとっては済んだ過去。 既に、少し遠くなりかけてる思い出なのかも知れない。 でもラブにとっては…… まだ、このまま続くであろう生の現実。 寂しくて、会いたくて、抱き締め合いたいのに、叶わない。 どんな未来が待っていても、大人のせつながどんなに素敵な人でも……。 今…ラブが会いたいのは、14才の自分と同じ時間を生きているせつななのだから。 「あのね、聞いてもいいかな?」 「何?ラブ。」 「今、話したりする?あたしと…って言うか、大人のラブと……」 離れていた時間の事。どんな気持ちでいたのか。 どんな風に過ごしてたのか。 二人の間では、もう笑い話になっているのだろうか。 「あんな事もあったよね……」 そう、笑顔で話題に出来る思い出に。 「しょっちゅうよ。」 「そうなの?」 「うん。随分、恨み事聞かされてるわよ。」 私だって寂しかったのに。酷いわよね。 愛しいものを見つめる眼差しで、せつなが表情をくつろげる。 ふざけながら、どれだけ寂しかったか競い合っているのだろうか。 そして、きっと。 「まあ、今は幸せだから。」そう話は結ばれる。 (えっ…と、やっぱ一緒に寝るの…かな?) 夜になり、先に風呂を借りたラブ。 今朝着ていたパジャマもいつの間に洗濯したのか、家とは違う 洗剤の匂いがしている。 (良い匂いだな、コレ。) 何の香りだろう? パジャマの衿元を引っ張り、鼻に引っ掛けるようにクンクンと匂いをかぐ。 これも二人の生活の匂いなのかな?なんて考えながら。 「お待たせ。じゃ、寝ましょうか。」 寝室に入って来たせつなを見て、ラブは少しばかり……いや、かなりガッカリした。 またあの色っぽい姿が拝めるかと密かに期待していたらしい。 しかしながら、せつなはパジャマを上下ともしっかり着込んでいた。 ラブの瞳に落胆の色を見たせつなが首を傾げる。 「……?」 「いえ……、別に…。」 「………!」 「あのね、それこそ察してくれる?」 メッ!と、たしなめられ、今度はラブが首を傾げかけ……、ハタとその理由に 思い至った。 つまりは、そう言う事があった時の特別仕様…と言う事か。 失礼しました。 「もう!ほら、さっさと入って!」 「いや、でも……」 そうなのだ。今朝とは事情が違う。 最初から眠っていて、気が付いたらここにいたのと、 改めてここで一から眠るのでは緊張感も心構えも違うのだ。 「別に変な事はしないわよ?」 「いえ!そう言う事では!」 真っ赤になってプルプル首を振るラブを、せつながベッドに引っ張り込む。 腕枕の要領で頭を抱えながら、コツンと額を寄せる。 「何も考えないで…。これは夢よ。」 大丈夫。ちゃんと眠れるわ。 そう言って髪を撫でてくれるせつなから、ラブのパジャマと同じ匂い。 「そうそう、忘れてた。」 「え?ちょっ!?何!!」 「大丈夫、じっとして。何もしないから。」 そう言いながら、ラブのパジャマのボタンを外し、胸の谷間に せつなが顔を埋める。 ぷるん、とした唇が吸い付く感触が何度か繰り返される。 これは何もしていない内に入るのだろうか。 「ふふ…、お土産。」 「???」 「はい。改めてお休みなさい。」 彼女の唇が触れた場所が熱を孕んで疼いている。顔も目も耳も火を吹きそうだ。 眠りなさい、と言いながらなんて事をするんだろう。 早鐘を打つ心臓。視界がぼやけてくる。 「ごめん……。」 真っ赤な顔で瞳を潤ませているラブを、せつなは申し訳なさそうに抱き寄せる。 「ごめんね。意地悪するつもりじゃなかったの。」 白く長い指が優しく髪を梳いていく。 ごめん、そう囁きながら瞼の雫を吸い取ってくれた。 額に、もう一度瞼に、両の頬に胸元に感じたのと同じ感触。 甘やかな刺激に、ラブの体からうっとりと力が抜ける。 無意識に軽く唇を尖らせ、次の触れ合いを待っていた。 しかし、しばらくしても期待した感触は降りて来ない。 その代わりに、きゅっと人差し指で唇を押さえられた。 「ダァメ…。」 目を開けると、いたずらっ子のような上目遣い。 せつなが、ちょっぴり意地悪する時の微かな艶を帯びた瞳。 「ここは、特別な場所だから。」 「……自分からしてきた癖に……。」 「そ。だから、ここまでね。」 「勝手だなぁ……。」 「大人なんてそんなものよ?」 クスクスと笑い合う。 せつなは拗ねた振りをするラブを胸に抱き込む。 こんなにドキドキしてたら眠れるはずがない。そう思っていたのに。 ラブは、揺り籠に揺られるように意識を遠退かせてゆく。 「お休み、ラブ。」 遠くに聞こえる声。 目が覚めれば、これは夢になってしまうんだろうか。 それとも、覚えている事すら無いんだろうか。 忘れたくない…。 ……… ………………… 「……………。」 ラブは寝惚け眼でベッドに体を起こした。 いつもの朝。自分の部屋。自分のベッド。 いつもと何も変わらない朝。 リンクルンの日付を確認する。やっぱりいつも通り。 1日経っている訳でも、時間が進んでいる様子もない。 ぼんやりとした頭に、次第に像が結ばれて行く。 「……ゆ、め…?」 大人になったせつな。 お揃いの食器。 二人の暮らす、シンプルな…でも、ぬくもりのある部屋。 信じられないくらい、リアルな夢だった。 (せつな、すっごい美人になってたなぁ……) あれが自分の理想の未来なんだろうか。 まだ鮮明に全身に残る幸せな夢の余韻に、ラブの頬はだらしないくらいに 緩んだままだ。 (しかし、久しぶりにいい夢見たなぁ~……) ちょっぴり元気出たかも。 そう思い、うー…ん、と伸びをする。 ふわり……と、体を包み込む匂い。 「!!!」 自分を抱き締め、その匂いを確かめる。 昨日とは、違う匂い。 夢でかいだ…、あの、二人の部屋と同じ匂い。 (まさか……ね……) パジャマの胸元を覗き込む。 すると、昨日までは無かったはずのもの。 胸の谷間の真ん中に、四つ丸く並んだ小さな痣。 まるで、赤い四つ葉のクローバー。 より鮮やかに、ラブの中に蘇る。 彼女の作ってくれた食事の味。 滑らかな肌とひんやりとした洗い髪の感触。 熱い火照りを残す、唇の跡。 「お土産……か。」 夢じゃない。 いつか、あなたも返してね。14歳のせつなに。 あなたが大人になって、一人泣いているせつなに出会ったら。 抱き締めて、キスしてあげて。 大丈夫だよって。一人じゃないって。未来は繋がってるって。 涙だって、笑って話せる思い出に出来るのだから。 「分かったよ…、せつな…」 あたしも、同じように返せばいいんだね。 せつなの胸に、赤いクローバーの印を。 そう、遠くない未来への約束に。 離れてしまったあたし達に起こった、奇跡のようなプレゼント。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/938.html
【1月21日】 『大好き』 シフォン「キュアキュア~」 祈里 「シフォンちゃん、おやつが食べたいのね」 ラブ 「チョコレートにクッキー。ケーキにアイスクリーム、あと、ドーナツ! 何がいい?」 祈里 「もう、ラブちゃんが食べるんじゃないのよ」 美希 「ラブって食べ物のことになると目が輝くわね」 ラブ 「だって~。美味しいものを食べるのって、幸せって感じしない?」 せつな「くすっ。ラブの食欲は大好きな人と一緒にいる時ほど増すのよね」 【1月22日】 『みんなで、はぁ~』 せつな「毎日とっても寒いわね~。はぁ~って息を吐くと、白くなるわ」 美希 「はぁ~。こうすると、冬って感じがするわね」 祈里 「はぁ~。吐息の水蒸気が水に戻るから白く見えるのよ」 ラブ 「はぁ~。なんとなく綺麗でいいよね」 あゆみ「若い娘の仕草は可愛らしいわね。ちょっとうらやましいかも」 【1月23日】 『のんびりしてました』 ミユキ「さぁ、みんな! 久しぶりにダンスレッスン始めるわよ!」 四人 「ハイッ! ――――はぁ、はぁ、はぁ、もうダメ」 ミユキ「……みんな、冬休みの間、走るくらいはしてた?」 四人 「それが……」 ミユキ「それじゃあ夏合宿の時と一緒じゃない。ビシバシ鍛え直すわよ!」 【1月24日】 『クイズです!』 美希 「今日はクイズです。ラブの苦手な食べ物はなぁ~んだ? 答えは明日!」 祈里 「ヒント、その① 今年の干支のうさぎさんの好物よ」 タルト「まだ、わからへんかな? もう一声や!」 祈里 「お馬さんも大好きな食べ物なのよ」 タルト「パインはん、さっきから動物の話ばっかやないか」 祈里 「ごめんなさい。じゃあね、子供は嫌いな子が多い野菜よ」 せつな「要するに、ラブは子供ってことよね」 ラブ 「せつなの番もあるんだからね?」 【1月25日】 『他人事じゃない』 美希 「ラブの苦手な食べ物はニンジン。ラブったら、ニンジンも美容にいいのに」 祈里 「わたしはニンジン大好きよ。甘くて美味しいのに」 ラブ 「だって、食感が気持ち悪いんだもん。美希たんは苦手な食べ物ないの?」 美希 「完璧なアタシに、苦手な食べ物なんてないわ」 せつな「みんな、お好み焼き食べに行きましょう!」 美希 「ごめんなさい……」 【1月26日】 『外に行こう!』 ウエスター「フッ、フッ、フッ。今日はなんだか、いいことがありそうな気がするぞ」 サウラー 「気のせいだろう。僕は部屋で本でも読んでいることにするよ」 ウエスター「焼き芋、タコ焼き、ラーメン、寒い日は熱々の食べ物が美味いぞ!」 サウラー 「僕はコタツにミカンで十分だ」 ウエスター「冬こそスポーツだ! 体が温まって気持ちいいぞう」 サウラー 「寒いのはおっくうだ。布団の中が気持ちいいよ」 ウエスター「ええい! いいから来い! その性根を叩きなおしてやる!」 【1月27日】 『満天の星空を見上げて』 せつな「冬は星がとっても綺麗に見えるのね」 ラブ 「あたし、星を見ながら時々お願い事するんだ」 美希 「リゲル、シリウス、プロキオン。星って姿も名前も美しいわね」 祈里 「こいぬ座、おおいぬ座、おうし座。冬の星座は名前も可愛いね」 せつな「楽しみ方も色々なのね」 【1月28日】 『トリニティの真髄』 ミユキ「今日はトリニティの三人で、ダンスステージに出演するの!」 ラブ 「わ~見たい! トリニティのステージはいつ見ても感動です」 せつな「トリニティって、三位一体って意味なんですよね?」 ミユキ「そうよ、三人の心と体を一つにするって意味なの」 美希 「その名の通り、息も動きも完璧に一致してるのよね」 祈里 「うん、いつ見てもびっくりしちゃう!」 タルト(その割には、逃げる時はいつもミユキはん置いてかれてるような……) 【1月29日】 『寝る前に飲むといいらしい』 祈里 「寒い日は、お家でホットミルクを飲むのがお気に入りなの」 せつな「私も好きよ。なんだか気分が落ち着くの」 ラブ 「バナナとココアとお砂糖をミキサーにかけて温めると美味しいよ!」 祈里 「それ、もうホットミルクと言わないんじゃ……」 美希 「聞いてるだけで太りそう……」 【1月30日】 『手取り足取り』 ラブ 「新しいステップをミユキさんに教わったの。って難しいよ~」 せつな「あせらないで。はじめはゆっくりと、正確に覚えましょう」 ラブ 「うん! がんばるよ!」 美希 「最後に加入したせつなに教わってどうするんだか……」 祈里 「でも、せつなちゃん凄く上手だし、ラブちゃんも上達すごいね」 美希 「いいなぁ~。家で二人で仲良くレッスンしてるんだろうなぁ~」 祈里 「わたしたちもお泊りする?」 【1月31日】 『幸せのカタチ』 カオルちゃん「兄弟、新しいドーナツ食べてみる?」 タルト「もぉ~! ムチャクチャうまいがな!」 カオルちゃん「だろう? おじさんって天才だから、ぐはっ」 美希 「自分で言ってれば世話ないわね、どれどれ、……ほんとに美味しい」 せつな「美希にだけは言われたくないわよね。あっ、……おいしい」 ラブ 「うわっは~、口の中で幸せが広がるよ、カオルちゃん!」 祈里 「シフォンちゃんもおいしいって」 カオルちゃん「どんなドーナツも、中からのぞく笑顔は変わらないのよね」 避2-573へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/170.html
「そういえば」 ふと、思い出したようにせつなが言った。 「この前、美希が腕を組んで歩いてた人、彼氏なの?」 思わずあたしは、飲んでいたコーヒーを噴出しそうになってしまった。 Sunset Walk, My Secret 「大丈夫?」 「へ、平気・・・・・・」 なんとか噴出すような無様なことにはならなかったけれど、あたしはすっかりむせ込んでしまった。 十分、無様か。あたし、全然完璧じゃない。 「あたし、彼氏なんていないわよ」 せつなが差し出してくれたティッシュで口の周りを拭きながらのあたしの言葉に、彼女は首を傾げて、 「でもラブが言ってたけど。あの人が美希の彼氏だって」 「ラブもいたの?」 「ええ。確か、前の日曜日だったかしら。駅前のデパートにいたでしょ?」 思い当たる節はある。 ラブの奴・・・・・・!! 「あれは弟よ、弟」 「弟? 美希、弟なんていたんだ?」 「ま、ね。わけあって、一緒には暮らしてないんだけど、時々は会ってるの。ラブも知ってるんだけどね」 そうなんだ、と言いながら、せつなは自分の前にあるコーヒーカップを手に取って、ゆっくりと口に運んだ。 最近、あたしとせつなは仲が良い。放課後にこうして外で待ち合わせて、一緒にお茶したりしてる。 自分でも驚いてるんだけど、せつなといると楽しい。 彼女がイースだった頃は、正直、少し苦手だった。警戒してた、という方が正しいか。ラブに近付いてるのも、 何かの魂胆があってのことじゃないかと思えて。 ま、実際にそれは正しかったんだけど。さすがあたしの勘。完璧だわ。 けど、キュアパッションとして生まれ変わって、仲間になってからのせつなは、すっごく素敵な女の子。何事にも 精一杯に頑張ってる姿は、見ていて微笑ましいし、あたしも頑張ろうって気になる。 それに、この世界のことをまだよくわかってないから、色々と教えてあげなきゃ、って気になる。 前にせつなのおつかいに付き合った時、マグロが見つからなくて困ってた。パックに入ったマグロの刺身を 取ってあげたら、首を傾げてあたしにこう言った。 「これ、お魚なの? 図鑑で見たマグロと全然違うわ」 って。魚は切り身で泳いでるって思ってた、って子供の話は聞いたことがあるけれど、せつなの場合はその逆で、 どんな魚も魚の姿のままで売ってるもんだと思ってたみたい。 そういう勘違いも、可愛らしいんだけれど、ね。 なんというか、せつなって、母性本能をくすぐってくる。頼りにされると嬉しいし。 だから最近は、あちこち連れまわしてたりする。色んなことを教えてあげるために。 特に、女子力を磨くようなところが多い。せつなって可愛らしくて、あたしから見ればダイヤの原石みたいなもの なんだけど、その自覚が無いのよね。お化粧なんてしたことないみたいだったし。それであの綺麗さなんだから、 ちょっとずるい、って思っちゃうけれど。 そんな風にあたしがせつなと一緒にいることが多くなって、ラブから一度、ブーイングを食らったことがある。 「美希たん、最近、せつなと遊び過ぎ。アタシだってせつなと遊びたいのにー」 いいじゃない、ラブ。あなたはせつなと一緒に暮らしてるんだから。他の時間はあたしにくれたって。 ま、そんなやり取りがあったわけだけど、多分、ラブったらそれを覚えてたのね。だからせつなにあんな嘘を 教え込んだんだ。 まぁ、悪意の無い冗談だろうけれど。ラブのことはよくわかってるから、何を考えてるのかもわかる。ちょっとした 悪戯なんだろうけれど、せつなに言ったら信じ込んじゃうじゃない。 って、あたしもラブに、和希のことを彼氏みたいに言ったことがあったから、おあいこか。 「でも」 またふと、何か疑問に思ったのか、せつながあたしを見つめてくる。 「腕を組むのって、恋人とか、夫婦とか、そういう人同士じゃないの?」 お父さんとお母さんも、時々、腕を組んで歩いてるわ。彼女はそう続ける。 そうなんだ。ラブのところのお父さんとお母さん、相変わらず仲が良いのね。ちょっと、羨ましいかな。あたしの 場合、物心ついた時にはお母さんしかいなかったから。 って、そんなこと考えてる場合じゃなかったわね。 「家族でも腕を組むことぐらい、あるわよ。あたしの場合がそう」 「ふぅん? じゃあ、あの子達も家族なのかしら?」 せつながあたしの背後に目を向けて、そう言った。振り返ると窓の外には、高校生と思しき女の子達が二人、 腕を組んで歩いていて。 どう見たって彼女達は、家族じゃない。 「あれは友達だからね」 「友達でも、腕を組むことはあるのね」 なるほどね、と頷く彼女に、あたしの中の何かが囁く。危険信号、と言ってもいい。 「言っておくけれど、せつな。男友達とは腕を組んじゃだめよ?」 「え? どして? 友達でも、腕を組むんでしょ?」 心底驚いた、といった感じの顔を見せるせつな。あたしは、やっぱり、と心の中で呟く。最近のあたしの勘、 せつなに関してはものすごく鋭くなってる。 「男の子と女の子が腕を組むのは、恋人とか、夫婦とか、家族の間でだけ許されるの。友達にはしちゃダメよ」 「難しいのね」 ううん、と顎に手をやって、せつなは考え込む。そんなに真剣になるようなことでも無いと思うんだけど。 「女の子同士で、友達なら、腕を組んでもいいのね」 「そうね。男の子と女の子が腕を組んでたら、ま、恋人か家族と思えばいいと思うわ」 「それはわかったけれど、じゃあ、男の子同士でも友達なら腕を組んで歩いたりするの?」 う、と言葉に詰まる。やられた。想像を越えてきた。完璧だった筈の話の流れは、せつなの一言で崩壊する。 ええと。ええと。なんて答えればいいのかしら。 「ねぇ、どして?」 首を傾げて純真な目で見てくるせつなは、やっぱり可愛い――――じゃなくて。 ああもう。誰か助けてよー。 結局。 あたしはせつなの問いに、しどろもどろになりながらも、なんとか誤魔化した。 彼女は釈然としない顔をしてたけれど、全部説明するのは難しいし、恥ずかしい。 ようやくせつなが話題を変えてくれた時には、あたしは結構、ぐったりしてた。世間知らずは可愛いんだけれど、 ほどほどにして欲しいわ・・・・・・。 「あ、もうこんな時間」 せつなが腕時計を見て、ビックリしたような声を出す。 窓の外の空は、夕焼け色。せつなといると、時間が経つのが早い――――けれど、彼女が気付いちゃったことが、 ちょっと残念。 実はあたしからは、せつなの背の向こうに時計が見えていた。だから今、何時かも全部、わかっていた。 あんまり遅くなったらいけない、とわかってたんだけど、少しでも一緒にいたくて、ついつい黙ってしまってた。 ちょっとだけ、罪悪感。ごめんね、せつな。葛藤はあったのよ? でも、本音を言えば、もっとあなたといたかったわ。 「じゃ、行きましょうか」 「ええ」 お会計を済ませて、外に出る。ちょっとだけ、アンニュイな気分。 あーあ。楽しかった時間もこれで終わり、か。残念。 ホント、夕焼け空が恨めしい。ずっとせつなといられたらいいのに。 なんてことを考えてたら。 「――――!?」 不意に、右腕に絡まってくるせつなの腕。 「せ、せつな? 急に、どうしたの?」 「え? 女の子で、友達同士なら、腕を組んで歩いてもいいんでしょ?」 ビックリして裏返った声で尋ねるあたしに、せつなは不思議そうに見上げてくる。 「う、うん。確かにそうなんだけど・・・・・・」 右肘には、柔らかい感触。前から思ってたけれど、せつなって案外、グラマーなのよね。しかもまだ大きく なってるって言ってたし。それにしても、気持ちいい。ぬくもりも、その柔らかさも――――ってあたし、何、 考えてるのよ!? 「美希、あたしと腕を組むの、いや?」 無言になったあたしを、せつなは不安そうに見上げてくる。心なしか、瞳がうるんでいて。 あたしは、その問いかけに全力で首を横に振った。 「いやなわけないわ。むしろ、あたしも腕を組んで歩きたいな、って思ってたぐらいだし」 ああ、良かった。空が赤くって。あたしのほっぺの真っ赤さ、せつなに感付かれてないわよね? 「そうなんだ。良かった。美希に嫌われてなくて」 「嫌うわけないでしょ、せつなを」 「ありがと、美希」 嬉しそうに言いながら、せつなはギュッとあたしに体を寄せてくる。ぷにぷに。肘の感触に、あたしの理性は 崩壊しちゃいそう。 ちゃんと言ってあげないといけないって、本当はわかってる。女の子同士の友達なら、そんな風に引っ付いたり しないんだって。せつながしてるのは、恋人同士みたいな腕の組み方なんだって。 ああ、でも。 まぁ、女の子同士なら、おかしくはないかもしれない。ううん、きっとおかしくないわ。たまにそういう風に引っ付き たくなること、あるもんね。うん。そうよ。あたし間違ってない。 完璧な言い訳を自分にしつつ、あたしは。 せつなにギュッと腕を抱きしめられながら。 幸せな気分で、夕焼けの帰り道を歩いたのだった。 ~後日譚~ 「ねぇ、せつな。ラブともこうして、腕を組んで歩いたりするの?」 「ううん、しないわ」 「え? どうして?」 「――――さぁ。どうしてかしらね」 クスクスと笑う彼女に、あたしは。 せつなって、基本さえ知れば、すっごく応用を利かせる子なんじゃないか、って感じて、ちょっと怖くなったりも したけれど。 ギュッ。せつながいつも以上にあたしの腕を抱きしめてきて、まぁいいか、って思ってしまう。 「私がこんな風に腕を組んで歩くのは、美希だけよ――――美希は?」 「も、もちろん、あたしもよ」 ごめんね、和希。もうあなたと腕を組んで歩けなくなっちゃったわ・・・・・・ 意志の弱いお姉さんを許してちょうだい――――